5月 132014
 
『ルーブル・ランス』の曖昧で幻想的な佇まいに魅了されて

 

地域再生の起爆剤
パリ北駅からTGVで1時間程度、ランスにできたSANAAが設計したルーブル美術館別館に行ってきました。ランスと言っても、シャンパーニュ地方のランス(Reims)ではなく、ベルギー寄りのカレー地方にあるランス(Lens)です。炭鉱の町として栄え、その後衰退したままのこの地で、ビルバオのグッゲンハイムが、町の観光地化を大きく牽引し、成功をおさめたように、この美術館も地域再生の起爆剤としての重責を担っています。

「風景の中に消える」というコンセプト
敷地を平地にせず、その高低差に馴染むように平屋の建物を配置した雁行建築。反射率の高い酸化皮膜されたアルミパネルとガラスの連続面に周囲の木々が柔らかく映し出され、空に溶け込み、曖昧で幻想的な印象を与えています。サナー特有の風が吹き抜けるような空気感、透明感もそこにあります。『金沢21世紀美術館を昇華させたもの』程度の気持ちで、この地を訪れましたがスケール感が全く違っていました。

 

 

『時のギャラリー』(la Galerie du temps)
「紀元前3千年から19世紀までの全作品をひとつのスペースに時系列に展示」することがコンセプト。手前から奥へと、アルミの壁に刻まれた年代にそって空間が細長く伸び、3Dの時代年表の中に舞い込んだような感覚です。

古代ギリシャの作品が、ペルシャ帝国やファラオ時代のエジプトの作品と隣り合って並んでいたり、古代ギリシャの石像を眺め、その視線の先にバロック絵画が見えたりします。自分の立ち位置と時代がリンクしていることがとても面白いです。

「パリと違ってこの美術館の目的は、6千年の歴史の中を歩きながら、博物館的に展示物を古いものとして見るのではなく、現代まで時間が繋がっていて、その先に自分たちがいるのだということを感じてもらう場所にすること、さらに異なる地域をまたいで行くので、いろいろな異文化を勉強する場所にすることにあるのです。」(妹島さん)

 

まず、展示室に入った瞬間、立ち尽しました。これまで経験したことのない、不思議な感覚。子供連れも多く、ある程度の話し声がしているのに静寂の空気が漂い。まるで雲の中を彷徨っているような現実離れした感覚です。 柔らかい自然光が、アルミの壁に反射して、作品や来場者がぼんやりと写り込んでできる効果が、このフワッとした雰囲気を作るのでしょうか?屋内でも屋外でもないような、何とものびやかな気分で美術鑑賞ができるのです。これだけ質の高い重厚な美術品が並んでいるのに、心が呑み込まれたり、疲弊するような、そういう圧迫感がこの空間にはありません。

 

梁が反復し、ルーバーが二重になった天井なので、直射日光を遮断し柔らかい自然光が入ります。

 

 

ラ・トゥールの「灯火の前の聖マドレーヌ」横には、悔悛するマドレーヌに合わせて、腕組みをして悔悛の表情の聖人の木彫り像。他にも、例えば、絵画の中の人物と隣の彫刻の人物の顔が同じ方向を向くような展示の工夫が沢山見られました。

 

フレームのないガラスケースなので、展示物の肩越しに違う時代の展示物が見えます。これも美術館特有の心への圧迫感を緩和して、ゆったりふわっと鑑賞できる効果があるような気がします。

 

 

 

 

ガラスを多用し、光を取り入れた設計で、内部は明るく、内と外の境界は曖昧です。仕切りは最小限で、1つの大きな空間の中に、受付、ショップ、インフォメーション、カフェなどの機能が見渡せます。

 

 

まだ進行中の、「Imrey-Culbert」によるランドスケープ。こんもり隆起した芝生は腰かけ椅子としてデザインされているのでしょう。大きな飛び石のように配置された白いコンクリートの輪が、躍動感を生んでいます。

 

ガラスのエレベーターを下りて地下に行くと、美術品の保管庫が全面ガラス張りで可視化されています。見ていると楽しいです!

 

 

 

  •  5月 13, 2014

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