5月 162014
 
オルセー美術館でゆったりとベルエポックの世界に耽る

 

今回の改築で東側の時計塔のスペースが有効に使われるようになり、そこにアール・ヌーヴォーの展示があります。(この上が、時計台裏のシルエットが素敵な休憩スペースになっています)さて、この展示、改装後の見どころの一つと言われているのですが、印象派の展示室の混雑とは対照的に閑散としています…。私にとっては、ゆったりとベルエポックの世界に耽ることができて嬉しい限りです。当時フランスの最高水準の技術により制作された、工芸、家具、装飾品などの流れるような曲線が織りなす豪奢なな作品の数々。それだけでなく、アーツ・アンド・クラフツ、ドイツやイタリア、スペインのアール・ヌーヴォーの展示もあります。

 

パリ・メトロのデザインで有名な建築家エクトール・ギマールが手掛けたロワ邸の窓ガラス。しっかりとした鉛の縁取りと色ガラスのバランス、ガラスに描かれた奔放な線のリズムが気に入っています。植物や花などを表さない抽象的なラインは、下の長椅子などの室内家具と呼応しています。

 

同じくロワ邸の喫煙用長椅子。パリ・メトロでの鋳鉄細工の仕事を思わせるような思い切った曲線。左手に喫煙道具の小函を配置した非対象の世界。ギマールは日本の『床の間』の非相称性に影響を受けたと言われています。この日本の非対称な構図については、日本美術を先駆的に論じた美術評論家エルネスト・シェノーが、的確に論じているので引用します。「左右不均衡の構図は余白を生み、動きを予感される形式にとらわれない形である。これには日本人の気取らない生活観に満ちた美意識があり、日本人の自然観が息づいているのである。」更に「日本美術の非対称の概念は単なる破調や自然を模した不均等ではなく、全体として統一(ユニティー)を希求した、より高次な調和への志向である。」(1878年)

 

 

ガウディ、グエル教会のベンチ。ロートアイロンとオーク材のバランスが良く、温かみのある作品。ガウディの家具は、見た目にも美しいのですが、同時に機能的なのです。手すりは、手にしっくりきますし、座面は快適に人を包み込んでくれます。これは、彼が人間工学にも精通していたことを伺わせます。さて、この教会用のベンチ、座面が少し外向きにカーブしていて、二人が座った時に、互いに少し外側を向く感じがなんとも程良く感じます。

 

シャルパンティエが手掛けたベナール邸のダイニング・ルーム。この美しい曲線に魅せられて、この人のことをちょっと調べてみました。

 

シャルパンティエについて、ざっと。パリ、労働者階級の生まれで、少年期にジュエリー職人に弟子入り。美術家になりたいという思いから、15歳でパリ国立装飾美術学校学に入学。彫刻科を希望するも学費が高かったため、メダイユ彫刻科で学ぶことに。生活費や学費の為に働きながらもメダイユのレリーフ学び、その才能を見事に開花させる。寡作の人で、ひとつの作品を製作するのに数年の歳月を費やしたと言われる。その後、アール・ヌーヴォーの芸術家として高級家具を専門に製作するアトリエを所有し、商業的にも成功。ロダンらと親交があり、リアリスムにも深い理解を示す。下のレリーフ作品「パン職人たち」は、彼が持つリアリストとしての側面がよく現れた作品。

 

若き労働者の肉体美と機械のメカニカルな美の調和が心に訴えてきます。ロダン によって非常に高く評価さた作品。

 

アールヌーヴォーからアールデコへの移行期の美しい肘掛け椅子。ヴュイヤールやボナールをはじめとするナビ派の作品が家具と一緒に展示されています。洗練されていながら濃艶な雰囲気が漂うカラースキームには脱帽します。

 

 

  •  5月 16, 2014

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